2011年3月2日水曜日

電脳コミュニケーションの現在系――ALSの支援の場から見えるBMIの限界と可能性


obstinate / ajari



現在、パソコンのカーソルを動かすのはマウスだ。だが、このインターフェースを脳波で考えるだけで動かせるようにするという試みがBMI(Brain machine Interface)という研究分野では行われている。たとえば、攻殻機動隊においても士郎正宗は、「電脳化」技術をいきなり一話に持ってきており、作品全体を通しての未来の基礎インターフェースに仕立て上げている。だが、電脳化は身体も電脳によって自由に動かせるようになっておりまだまだ実用化しているとは言いがたい。
なににせよ、「電脳化」は、2011年現在のALS患者のコミュニケーション支援の現場からすればユートピア的妄想であり、技術に対して人々がもつ幻想ですらある。ALSとは、筋萎縮性側索硬化症のことであり、進行性の難病だ。この病気は、徐々に筋肉が動かなくなっていき最後には何も動かせなくなり、目も閉じてしまい人工呼吸器で辛うじて生きている状態になる。しかし、ALSの患者の残された脳という部位を活用してコミュニケーションが出来るようになる。それが、日立から発売されている「心語り」および、テクノスジャパンから発売されている「マクトス」だ。
そもそも、BMIとは侵襲式と非侵襲式があり、現在BMIを実用化していく上で、士郎正宗の電脳化のように脳に直接電極などを埋め込まない侵襲式が現在、ケアの現場では幅広く利用されている状況だ。「心語り」も非侵襲式であり「光トポグラフィ」を利用し、赤外光センサを取り付けたヘッド・ギアから、脳の各部の血流変化を同時に見る事で、脳血流量変化を見ることでYES/NOを選択することが出来るという。
一方、マクトスは、脳で発生した信号を額にとりつけたディテクタで検出し、この信号を電気的な制御信号に変換して出力するもので、頭の中で意識的に発生させた信号をパターン比較し、Yes/Noを判定するようだ。しかし、製品の測定原理からどちらのメーカーも扱いづらい現状を露呈しているようだ。

血圧測定ですら色々な条件で値が変る事はよく知られていますが、脳を流れる血流の変化量はそれとは比べ物にならないほど微妙で、患者さんの体調ひとつで判定結果が反転する場合もあり、周りの環境や問い掛けるタイミング、言葉遣いに大きく影響されます。
(心語り: http://www.excel-mechatronics.com/medical.html)

信号が自分の意志とは別に出てしまうことがまだまだ多いようです。周囲の者には、彼の意思が出ているのかどうかは不明ですが、こちらの問いかけに対してタイミング良く出た時には彼の意思と受け取っています。「今、返事が出たね」というように、今出た信号を受け取ったことを知らせています。彼の意思でなく信号が出た時には「そうじゃないよぅ」と思ってるだろうけど、「信号が出てしまったからそう受け取られたんだ、もっと上手に出すようにしなくっちゃ」と受け取って欲しいです。
しかし、自分の意志と無関係に信号が出てしまったり、その信号に周りが反応してくると結構うっとおしくて、ストレスになってくるかもしれません。
(マクトス: http://technosjapan.jp/communicate/jirei.html)


ケアにおける、BMIはまだまだ認識率に問題があり、機器に対して練習や慣れを必要とする。これらは、今後のBMI技術を障害者支援に転用するときの最大の課題となりそうだ。だが、仙台市在住のALS患者である和川さんのご家族がいうように、「自分だけの力でできなかったことが、信号を出すことで出来るようになり、受身のコミュニケーションから、積極的なコミュニケーションへと変わってきている」ということが、この技術があったときとなかったときの最大の違いなのではないだろうか。とかく、難病であると会話すら受身にならざるをえない状況におかれる。このような受身一辺倒の状態からの、脱却を図る上でも早く誰でも簡単に利用できるBMIが必要ではないだろうか。

参考文献
http://www.excel-mechatronics.com/medical.html
http://technosjapan.jp/communicate/jirei.html
櫻井芳雄 2009 「脳と機械をむすぶ--ブレイン-マシン・インタフェースの目指すところ (特集 福祉と科学の新しい関係--身体・脳・マシン)」 『科学』79-5 : 535-537 岩波書店